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生きづらさから解放された社会を、九州から実現したい 〜「NIJINIPPON PROJECT」ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンの取り組み~

右:株式会社西日本新聞社 メディアビジネス部 田中稔大さま
中:電通ダイバーシティ・ラボ 中川紗佑里
左:電通九州 電通総研アソシエイト・プロデューサー 吉田考貴

◆ 課題 人種、国籍、宗教、年齢、性別、性自認、性的指向、障害の有無などにかかわらず、誰もが等しく尊重される社会を実現したい
◆ 施策 新聞社と連携し、啓発を含めた情報発信やイベント企画などを展開
◆ 効果 発信で勇気づけられた人が増え、取り組み企業の価値向上にもつながった

ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性・公正性)、インクルージョン(包摂性)。それぞれの頭文字をとってDEIと呼ばれるこの概念は、誰一人取り残さず公平に尊重される社会の実現にとって、不可欠なものです。企業でもさまざまな取り組みが始まっていますが、単に方針を定めるだけでは、人の意識はなかなか変わらないもの。理解を深め、バイアスを取り除き、企業価値向上にまでつなげるためには、どんな施策が有効なのでしょうか。

そんな課題意識から生まれたのが、電通九州が西日本新聞社と共同で立ち上げたNIJINIPPON(にじにっぽん) PROJECT。九州から全国へとDEIを広げていくこの活動の主要メンバーに、取り組みの内容や課題について、語っていただきました。

誰かひとりのためが、やがてみんなのためになる

NIJINIPPON PROJECTは、電通九州の吉田が使命感に駆られて、九州で旗揚げしたプロジェクトです。きっかけは、吉田が東京にある電通総研に出向していた頃の、ある出来事でした。

吉田
「当時は東京2020オリンピック・パラリンピックの真っ只中。LGBTQ+など性的マイノリティであることを公表して出場した選手が180人以上いたことや、トランスジェンダーの選手が競技に初参加したこと、パラアスリートの活躍などDEIの機運が急速に高まっているのを感じていました。より良き社会のあり方について考えるきっかけになったと同時に、これを一時的な話題にしてしまってはいけないと強く思いましたね。私はこれまで、主に広告コミュニケーションやプロモーションの領域でずっと仕事をしてきました。40代になり、ひと通り仕事も経験して、これから社会に対して何ができるだろうと考えた時に、生きづらさを抱える人たちの存在を知りました。これは、一生をかけて取り組むべきテーマだと感じたんです」

電通九州 電通総研アソシエイト・プロデューサー 吉田考貴

吉田の心を動かした背景には、電通ダイバーシティ・ラボの活動があります。これは電通グループを横断するタスクフォースプロジェクトで、メンバーは100人程度。DEI領域の課題に対するリサーチやサービス開発、企業の人材育成やコンサルテーションなどを、2011年から取り組んでいます。

電通ダイバーシティ・ラボのメンバーである中川は、活動内容をこう語ります。

中川
「ラボでは『インクルーシブ・マーケティング』という考え方を大切にしています。DEIは、社会課題であるだけでなく、企業活動においても重要な観点なんですね。というのも、今の時代は多様化が進んでいて、例えば20代女性といっても、生活スタイルや趣味嗜好はさまざまです。むしろ、性年代などの旧来的なセグメントにとらわれず、一人の顧客を深く理解し、その人に向けて作ったプロダクトが、結果的に多くの人にとって使いやすいものになるといったケースも増えています。そのように、企業活動の支援にも繋げられるよう、広範にわたる調査やアドバイスを行うのが、ラボの役割になります」

電通ダイバーシティ・ラボ 中川紗佑里

ラボの活動領域は、主に障害、ジェンダー、多文化、ジェネレーションの4つ。例えば、ジェンダーのチームでは、LGBTQ+に関する調査や、LGBTQ+について「知る」「考える」「行動する」ための『アライアクションガイド』の作成、老眼や白内障、高齢の方でも読みやすいフォントである「みんなの文字」の開発などを行なっています。ちなみに電通で普段使用するパソコンには、すでにこの文字が搭載されているそう。

変わりたいという意欲を削がないために

東京ではダイバーシティという言葉が一般化する前からさまざまな活動が行われていた一方で、九州には「九州男児」という言葉に象徴されるように、伝統的なジェンダー規範が根強く残っていると言われています。西日本新聞社など九州4紙が、2022年11月19日の「国際男性デー」に合わせて実施した九州男児についてのアンケート(回答数2181人)でも、以下のような回答が出ています。

吉田

「DXにしろSDGsにしろ、九州は東京にワンテンポ遅れていると思われてしまうのは自分としても悔しいですし、自ら先導して変えていかないといけない。でもこれは、一社で足掻いても仕方ないことだとも感じていました。そこで、九州から一緒に社会を変えていけるパートナーとしてお声かけしたのが、西日本新聞さんでした」

西日本新聞社の田中さんはこう言います。

田中
「実は、私自身がその時点でダイバーシティやインクルージョンに対して強い関心や理解があったわけではありません。でも、当社は新聞社として、ジャーナリズムの本懐である人権に関して積極的に取り組んできた歴史があります。近年はLGBTQ+に関する発信にも力を入れてきました。ですからお声かけいただいて、ぜひ一緒に取り組みたいとなりました」

株式会社西日本新聞社 メディアビジネス部 田中稔大さま

プロジェクト発足から最初の1年は、九州の自治体や企業を周り、プロジェクトの概要を伝え、賛同を募り、それぞれが抱えている課題をヒアリングしました。そして2023年より本格的な活動フェーズに入り、まずは、年間を通じて行われるさまざまな啓発イベントやメモリアルデーに合わせた情報発信から、始めています。

その第一弾が、2023年3月8日の国際女性デーでの発信。九州の企業で働く女性に取材した記事を、西日本新聞の誌面とWebで展開しました。

吉田
「実感したのは、発信することによって勇気づけられる人たちが、確実にいるということです」

田中
「うちの社内でも変化がありました。自社内での取り組みを省みるきっかけになったり、編集サイドと連携して記事展開を深めたいという話が出てきたり、議論が活発化しましたね」

記事化することにより、取材された当人だけでなく、属する組織や業界にも波及して、DEIを考えるきっかけになります。取材に立ち会った中川も、良い環境を作っていく気概を感じたと言います。

中川

「社会学用語で『アスピレーション(意欲)の冷却」という言葉があります。『どうせ女の子だから』とか『女だから仕方ない』というように、がんばって上を目指すことを周りから期待されず、本人の意欲が削がれていくという現象です。取材した2社は、企業のトップが社員の属性に関係なく期待をしていて、職場の環境を変えていこうとされていました。インタビューさせていただいたお二人も、トップの気持ちを受け取って、自分たちから前向きにがんばろうという意志を感じられたことが嬉しかったです」

2社に取材した記事は、NIJINIPPON PROJECT公式サイトより読むことができる

すべては自分ごと、自分の未来に関わること

DEIを広げる上での課題は、自分ごととして捉えるきっかけがない限り、行動が伴わないこと。例えば前述の書籍『ビジネスパーソンが知っておきたいLGBTQ+の基礎知識』では、ストレート層のLGBTQ+に対する考えを「アクティブサポーター層」「天然フレンドリー層」「知識ある他人事層」「誤解流され層」「敬遠回避層」「批判アンチ層」という6つのクラスターに分類し、その問題点を指摘しています。

中川

「この6分類の中で、最も割合が多いのが『知識ある他人事層』なんです。この層の人は、知識はあっても当事者が身近にいないなどで課題を自分ごと化するきっかけがなく、現状維持を選びがち。でも、LGBTQ+の人は11人に1人と言われていますから、本当は身近にいないってことはないはずですよね。これまで他人事だったことを、自分ごととして捉える機会を増やし、行動にうつす人が増えれば、社会全体としてDEIを推進できると思います」

自分ごとに感じてもらう活動。その母体となるべく、NIJINIPPON PROJECTは今後もさまざまな展開を予定しています。最後に吉田は、今でも自分を鼓舞する、象徴的な体験について語ってくれました。それは、ある大学の講義に招かれ、NIJINIPPON PROJECTの紹介をした時のこと。

吉田

「ある学生がその場で手を挙げて、カミングアウトしてくれたんです。突然のことに驚きましたが、同時にこの活動の意義や責任を強く感じた瞬間でもありました。『いま、みんなが私のことをどんな目で見ているのか、すごくドキドキしています』と声を振り絞るように話してくれた学生の姿に、私もまた勇気をもらいました。誰もが生きづらさにあえぐことなく、この社会で健やかに生きられるように。人の意識を変えるのは簡単ではありませんが、地道に取り組み、メッセージを発信し続けたいと思います」


人物取材だけでなく、イベント開催やプロダクト開発など、さまざまな施策を考えているとのこと。自治体や企業のヒアリングも随時行っていますので、ぜひご相談をお寄せください。ともに九州から、DEIを広げてまいりましょう。

NIJINIPPON PROJECT公式サイト
http://niji-nippon.com